大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

最高裁判所第二小法廷 昭和45年(オ)1081号 判決

上告人

有限会社中央商事

右代表者

戸辺禮吉

右代理人

皆川健夫

被上告人

中村直一

右代理人

今村滋

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人皆川健夫の上告理由(一)の一ないし七について。

所論の点について、原審は次のとおり認定判断する。すなわち、

被上告人は、昭和二五年一二月頃塩沢正十郎の後見人と称する塩沢通有から本件建物を代金二五万円、うち二〇万円は即時払い、残金五万円は所有権移転登記と同時に支払う約で買い受けることとし、その旨の売買契約を締結した。右売買契約当時は正十郎は未成年(一七年一〇月)であつて、昭和二五年七月三一日父公之の死亡により親権を行なう者なく後見が開始したが、塩沢通有が正十郎の後見人に就職したのは同二六年一二月二四日のことであり、したがつて、昭和二五年一二月の右売買契約時には塩沢通有はまだ正十郎を代理して右契約を締結する権限をもたなかつた。しかし、通有は、後見人に就職する以前においても正十郎のため、叔父として事実上後見人の立場で正十郎の財産の管理や整理に当つていたのであつて、このことについては何人も異存なくこれを承認してきた。そして、右売買契約を被上告人と締結して間もない翌年には、通有は正十郎の後見人に就職し、右売買契約時においては正十郎の無権代理人であつた通有が、かくて、正当な法定代理人の資格を取得し、無権代理人と後見人との資格が同一人に帰属するに至つたものである。それ故、被上告人と無権代理人通有間の右建物売買契約において、通有は後見人自ら売買契約をなしたと同様の法律上の地位を生じたものと解するのが相当であり、右売買契約をなすについて通有と正十郎との間に利益相反の事実を認めるに足りる証拠はないから、後見人就職後追認の事実がなくても、右売買は通有の後見人就職と共に正十郎のため効力を生じたものと解すべきである。

というのである。

ところで、未成年者のための無権代理行為の追認は、該未成年者が成年に達するまでは、後見人がこれをなすべきものであり、したがつて、無権代理行為をした者が後に後見人となつた場合には、無権代理行為をした者が後に本人から代理権を授与された場合と異なり、追認されるべき行為をなした者と右行為を追認すべき者とが同一人となつたものにほかならない。加えて、原審の確定した前記事実によれば、無権代理人たる通有は、後見人に就職する以前においても正十郎のため、叔父として事実上後見人の立場でその財産の管理に当つており、これに対しては何人からも異議がでなかつたのであつて、しかも、本件売買契約をなすについて正十郎との間に利益相反の事実は認められないというのであるから、このような場合には、後に通有が後見人に就職し法定代理人の資格を取得するに至つた以上、もはや、信義則上自己がした無権代理行為の追認を拒絶することは許されないものと解すべきである。したがつて、原審の確定した事実関係のもとにおいては、追認の事実がなくても、無権代理行為をなした通有が後見人に就職するとともに、本件売買契約は正十郎のために効力を生じたのであつて、これと結論を同じくする原審の判断は正当である。

それ故、原判決には所論の違法はなく、論旨は理由がない。

同(二)の一について。

本件売買契約をなすについて通有と正十郎との間に利益相反の事実を認めるに足りる証拠はないとする原審の認定判断は、本件記録に照らして正当としてこれを肯認することができる。所論は、原審の確定しない事実を前提に原判決を非難するものであつて採用することができない。

よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(村上朝一 色川幸太郎 岡原昌男 小川信雄)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例